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下肢静脈瘤とは
下肢静脈瘤とは、血管の大きさにかかわらず、静脈弁不全に伴って生じる血管の延長、拡張、屈曲または嚢状に突出し肥厚した静脈のことです。
下肢の静脈は老廃物や二酸化炭素を含む血液を心臓に運びますが、この時、血液は足の下から上へ重力に逆らいつつ流れます。
下肢の静脈には重力の影響を最小限にするために5~10cm間隔で静脈弁(一方向弁)が付いており、この静脈弁は血液が心臓の方向に流れる時に開き、逆に血液が重力の影響で心臓とは逆の方向に流れようとすると閉じて、血液の逆流をせき止める働きをしています。
この静脈弁が機能しなくなる静脈弁不全になると、血流へのポンプ作用が無い時に血液は重力に逆らえずに逆流してしまい、下のほうに溜まって血管内の血液の容量が増えていくことになります。
血管内の血液の容量が増えると血管は拡張しつつ長さも延長していきます。
更に容量が増えて血液が溜まり続けると、血管は屈曲し蛇行して血管壁の弱いところは嚢状にふくらむようになります。
疫学調査によると日本では10人に1人が下肢静脈瘤を発症しており、さらに経産婦の2人に1人は下肢静脈瘤と診断されるほど女性に多い疾患となっています。
下肢静脈瘤の種類
クモの巣状
網の目状
側枝型
伏在型
下肢静脈瘤には一次性静脈瘤と二次性静脈瘤があります。
一次性静脈瘤は、表在静脈の拡張や弁不全によって血管が拡張、屈曲、蛇行したもので、大伏在静脈や小伏在静脈の逆流によるものが多くなっています。
一次性静脈瘤は、その肉眼的所見から4つの型に分類されています。
1.クモの巣状静脈瘤
真皮内の1mm以下の常に拡張した細静脈が集まったものです。
明るい照明のもとでは、2m離れてみると正常に見えます。
2.網の目状静脈瘤
径が1mmから3mm未満で皮内の常に拡張した青みがかったもので、通常屈曲しています。
皮膚から透見される正常の血管は除きます。
3.側枝型静脈瘤
抹消の静脈枝が拡張したもので、下腿にみられることが多いものです。
伏在静脈の分枝部分の弁不全や穿通枝の弁不全によって起こることが多い静脈瘤です。
4.伏在型静脈瘤
大伏在または小伏在静脈の本幹またはその大きな枝が拡張したものです。
血管が浮き出てくるほか、腫脹や色素沈着、潰瘍といった見た目に目立つ症状が現れます。
二次性(続発性)静脈瘤は、深部静脈血栓症や血栓後遺症、妊娠、悪性腫瘍などが原因で、深部静脈の還流障害及び穿通枝(交通枝)の逆流によって生じるもので、何らかの誘因があって、その後に起こる(続発性)ものです。
また、臨床上の分類としてCEAP分類があります。
これは下肢静脈瘤に代表される慢性に経過する静脈疾患に対する重症度分類でC0~C6に分類されています。
分類 | 臨床分類 |
---|---|
C0 | 視診または触診で静脈病変を認めず |
C1 | 毛細血管拡張症(直径1mm以下の皮内静脈) または網目状静脈(直径1〜3mmの皮下静脈) |
C2 | 静脈瘤(直径3mm以上) |
C3 | 浮腫 |
C4a | 色素沈着または湿疹 |
C4b | 脂肪皮膚硬化症または白色萎縮 |
C5 | 治療潰瘍 |
C6 | 活動性潰瘍 |
下肢静脈瘤の症状と合併症
下肢静脈瘤の症状は、主に静脈に老廃物を含んだ静脈血が溜まることにより発症します。
クリニックに来られた患者様が訴える下肢静脈瘤の症状は見た目の問題が最も多くなっていますが、お話を伺うと疲れやすい、足が重い、足がむくむなど、さまざまな症状で悩まれています。
下肢静脈瘤の症状としては、
- 靴下の跡が残る。
- 夕方になると靴やブーツがきつくなる。
- 足がだるい、疲れが取れない。
- 朝になっても足のむくみが取れない。
- 足の血管が透けて見えるようになった。
- クモの巣のように細かい血管が浮き出て見える。
- 足首あたりが夕方より痒くなる。
- 夜中に足がつって目が覚める時がある。
- 足首やふくらはぎ、太ももに血管が浮き出てボコボコしている。
- 足にかゆみや湿疹がある。茶色っぽく色がついている。
などでのご相談が非常に多くなっています。
また、ある施設の調査では 重い、だるいが56%で最も多く、むくむ9%、痒い6%、こむら返り5%の順で多かったと報告されています。
むくみ(浮腫)
下肢静脈瘤によるむくみは特に足首が強く、立ちっぱなしの仕事の方、もしくは座りっぱなしの仕事の方からの訴えが多くなっています。
ただ、朝になると改善するため疲れているだけだろうと考え、病院に行こうと考える方は少ないようです。
こむら返り
下肢静脈瘤の患者様の症状として75%の方にこむら返りが認められます。
普通は運動時にこむら返りが発生することが多いのですが、下肢静脈瘤の場合は安静時や、特に就寝時に起こることに特徴があります。適度な運動により改善します。
かゆみ
下肢静脈瘤によって下肢に老廃物が溜まることで、皮膚が正常な代謝を行えなくなり発症します。
静脈瘤部に沿ってかゆみを訴えることが多く、次第に痒い範囲が広がっていきます。
痛み
静脈瘤自体が直接的に痛みを伴うことは少ないのですが、長時間の立位や座位の後に痛みが生じる事もあります。
また、下肢静脈瘤によって血管内に血の塊(血栓)を生じて、その刺激で痛みを訴えることもあります。
運動時や歩行時に痛みを生じて歩けなくなり、休むとまた歩ける場合は、静脈瘤の影響ではなくその他の原因の場合が多いようです。
鬱滞性皮膚炎
下肢静脈瘤の症状である痒みは、昼間は比較的我慢出来るのですが、夜間にいつの間にか掻いてしまうことが多く、掻いている内にやがて皮膚炎が起きてきます。
この皮膚炎は外的な原因で起こる訳ではなく、血管内に老廃物が溜まることが原因で起こる皮膚炎ですから、皮膚にお薬を付けてもなかなか治らない非常に難治性の皮膚炎となってしまいます。
そしてこの下肢静脈瘤に起因する皮膚炎は、放っておくと残念ながらどんどん悪化して行くことになります。
そして皮膚炎の症状が進行していくと、やがて皮膚に色素が付いてくるようになります。
瘤内血栓
拡張した瘤内は血液のよどみができて、そこに血の塊(血栓)が出来やすくなります(10~20%)。
瘤内に血栓が出来るとしこりとして触れるようになります。
また、血栓の刺激により血管内に血栓性静脈炎を起こします。
血管内に炎症を起こすと、血栓がさらに成長しやすい状態になります。
深部静脈血栓症(DVT)肺動脈塞栓症(PE)
瘤内の血栓が静脈炎を繰り返すことで発育し、深部静脈を閉塞すると深部静脈血栓症になります。深部静脈血栓症になると突然下肢がパンパンに腫れて痛みを伴います。
こうなると緊急入院の対象になり、退院まで2~3週間ほどかかります。
また、瘤内の血栓が血液の流れにのって飛んでしまうと、肺動脈に詰まって突然の呼吸困難や場合によっては死に至る肺動脈塞栓症を発症してしまいます。
血栓性静脈炎における深部静脈血栓症の発生率は11.8%、肺動脈塞栓症の発生率は13~44%と高い確率が報告されています。
下肢静脈瘤の危険因子
下肢静脈瘤には、なりやすくなる危険因子があります。
遺伝
遺伝子の関与は現在のところ明らかになってはいませんが、両親が下肢静脈瘤の場合に子供は90%、片親が下肢静脈瘤の場合45%、両親とも違う場合20%に発症すると報告がなされています。
妊娠
妊娠により下肢静脈瘤が発症、増悪することが多いため、下肢静脈瘤は女性に多い疾患です。
骨盤の中に女性の場合子宮がありますが、その子宮の中に生命が宿ると10か月の間に2000ccから3000ccまで多きく成長します。
限られた骨盤のスペースの中で一つのものが大きくなると、他の柔らかいものから潰されていくことになります。
静脈は非常に柔らかいですから、成長と共に静脈が潰されて血液が流れにくくなり、静脈弁に負担がかかり下肢静脈瘤が発症します。
職業
運動が制限された立ち仕事やデスクワークの方は、血液のポンプ作用が働きにくく、血液の鬱滞による静脈弁の負担増加により下肢静脈瘤が発症しやすくなります。
食事、便秘
便秘の方は排便時の腹圧や、大腸の鬱滞による静脈の圧迫などにより下肢静脈瘤を発症しやすくなります。
肥満
肥満と下肢静脈瘤の因果関係については議論のあるところですが、ボディーマスインデックスと下肢静脈瘤の発生頻度に相関がみられており、肥満による運動不足、腹腔内圧上昇や腹腔内占拠物による静脈の圧迫などから下肢静脈瘤になりえると考えられています。
外傷や過度の運動
外傷による弁の破壊や、過度の運動による血流増加に伴う血管の拡張、直接的な振動などによる弁の負担から下肢静脈瘤になることが考えられており、マラソンなどのアスリートの方に多く見られます。
加齢
年齢の増加に伴い下肢静脈瘤の発生頻度は増加します。
下腿筋ポンプ作用の減弱や、時間的経過が共に作用していると考えられています。