新型コロナウイルスの感染が拡大する中、日本感染症学会は18日、感染対策のため、観覧者を入れずに講演をインターネットで配信する形で緊急シンポジウムを開催しました。新型コロナウイルス対策にあたる政府の専門家会議のメンバーや、治療にあたる医師などが迅速観察研究の結果を報告しました。
新型コロナウイルスの治療について、インフルエンザ薬やぜんそく薬の投与で改善したケースもあったことなどが報告されましたが、転帰の判断が医師の主観によるものであるほか、吸入ステロイドのオルベスコ(シクレソニド)などとの併用療法も多く、対照群も置かれていないなど、観察研究の限界もあると指摘し、今後さらに、効果を見極める必要があるとしています。
新型コロナウイルスには特効薬はないため、別の病気の治療に使われている薬の投与が行われている状況です。藤田医科大学の土井洋平教授は、インフルエンザ治療薬の「アビガン(ファビピラビル)」を患者に投与した状況について報告しました。
それによりますと、アビガンを投与された346例(男性:262例、女性:84例)のうち、軽症と中等症の患者ではおよそ9割、人工呼吸器が必要な重症患者では6割で2週間後に症状の改善が見られたということです。ただし、ファビピラビルは催奇形性の副作用が知られているほか、新型コロナウイルス感染症は男性の比率が高いことから、男性への投与が多くなっています。土井教授は現在行われている治験などで、さらに効果を確かめる必要があるという考えを示しました。
主治医の主観でファビピラビル投与後の転帰を、「改善」、「不変」、「増悪」にわけて評価したところ、軽症では投与開始7日後に70%、14日後には90%に改善が認められました。中等症では投与開始7日後では66%、14日後では85%でした。重症でも投与開始7日後に41%、14日後には61%が改善しました。ただし、重症例では「悪化」が投与開始7日後で34%、14日後では33%だったとしています。なお、軽症は酸素投与がない患者、中等症は酸素は投与しているが機械換気がない症例、重症は機械換気がある症例と定義しています。
また、吸い込むタイプのぜんそくの治療薬「オルベスコ(シクレソニド)」についても報告されました。肺炎になったあとで投与された75人のうち、症状が悪化して人工呼吸器が必要になった患者が少なくとも3人、亡くなった患者は2人だったということで、この薬を使わない場合に比べて悪化する割合を下げられる可能性があるとしています。
土井教授は、「既存薬で改善したケースも出てきているが、有効性を確かめるには、薬の投与がない患者との比較や投与するタイミングなどの検証が今後必要だ」と話しています。
「医療崩壊」防ぐうえで重要な役割も
国の研究班の班長としてぜんそく薬の「オルベスコ(シクレソニド)」を患者に投与する臨床研究に関わる愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、「今回のデータだけではまだ断定はできないが、オルベスコを投与することで、重症の肺炎になって人工呼吸器が必要になる患者を減らせる可能性がある。全国で感染拡大が続く中、医療機関で受け入れ可能な患者数を超えて患者を助けられなくなる『医療崩壊』を防ぐうえで、重要な役割を持つ薬と考えられるので、さらに分析を進めたい」と話しています。また、新型コロナウイルスに対する”特効薬”は、まだ開発されていないことを強調したうえで、「100点満点の薬剤はなく、候補の薬剤はそれぞれ長所・短所をあわせもっている。それぞれの薬剤の長所・短所を明らかにしたうえで、患者の診療に当たる医師の治療選択肢を増やす形が望ましい」との見解を示しました。重症例では一定数人工呼吸器やECMOが必要になりますが、「重症化する前にいかに治すかに全力を注がないといけない」と話し、薬物治療の重要性を強調しました。
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