厚生労働省は国内初の治療薬として、新型コロナウイルスの治療に効果が期待されている「レムデシビル」の使用を承認しました。重症患者を対象にするということです。
承認されたのは、新型コロナウイルスの治療薬としてアメリカの製薬会社「ギリアド・サイエンシズ」が申請していた「レムデシビル」で、もともとはエボラ出血熱の治療薬として開発が進められていた薬です。アメリカでは今月1日、新型コロナウイルスの治療の重症患者に対する緊急的な使用が認められました。
国内でも5月4日に「ギリアド・サイエンシズ」の日本法人から申請され、7日夜、専門家らが出席する厚生労働省の審議会が安全性や有効性などについて議論し、承認を認める意見をまとめました。
これを受け、加藤厚生労働大臣は、「特例承認」という審査を大幅に簡略化する制度を適用し、国内で初めての新型コロナウイルスの治療薬として承認をしました。
「レムデシビル」は重症患者への効果が期待されていますが、流通量が限られているため、必要な量を確保できるかが問題となっています。ギリアド社は10月までに50万人分、12月までに100万人分の生産量を目指すと発表していますが、日本への配分量は未定の状態です。さらに、有効性や安全性に関する情報が極めて限られているため、重症患者のみを対象として使用されるということです。
レムデシビルとは
レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として、アメリカに本社がある製薬会社「ギリアド・サイエンシズ」が開発を進めてきた薬です。
エボラ出血熱の薬としては承認されていませんが、コロナウイルスの一種によって引き起こされたSARSやMERSに対して効果があるとする研究結果が示されていたことから、新型コロナウイルスの治療薬になるのではないかと期待されてきました。
新型コロナウイルスはのどの近くの「上気道」と呼ばれる場所で感染し、細胞の中に入り込み、増殖します。ウイルスが、細胞の中で、みずからの「RNA」という遺伝子を複製して増殖するのですが、レムデシビルにはそのウイルスの増殖に必要なRNAの複製をできなくさせる作用があるからです。
各国の医療機関が共同で行っている臨床試験の一部をアメリカのNIH=国立衛生研究所が分析した結果、レムデシビルの投与を受けた患者は、投与されなかった患者に比べ、回復までの日数が約4日早い11日で患者の回復を早めることが確認されたとしています。
ただ、効果を示す報告がある一方で、副作用を懸念する声もあります。
先月、日本やアメリカ、ヨーロッパの研究グループがアメリカの医学雑誌に発表した研究結果によると、薬を投与したあとで患者53人のうち、68%にあたる36人に改善が見られたとの事です。しかし一方で、23%にあたる12人では、多臓器不全や敗血症、急性の腎臓の障害などの重い副作用が出ており、ほかにも、重くはないものの、肝機能障害、下痢や発疹などの症状も報告されています。
感染症の治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、「国内で簡略化した手続きで使うことができるようになり、新型コロナウイルスの治療が一歩前進したことを意味すると思う。ただ、投与した患者に腎臓や肝臓の機能障害も報告されていて、供給量も限られるため、治療の経験を積んでいる医療施設で、重い肺炎の患者に対して使われるべきだ」と話しています。
ほかに検証が進められている薬は
レムデシビル以外にも、新型コロナウイルスへの効果が期待されている別の治療薬を患者へ投与し、有効性や安全性の確認が行われています。
抗インフルエンザ薬アビガン
富士フイルム富山化学が開発したインフルエンザの治療薬「アビガン」は、レムデシビルと同じく、ウイルスがRNAを複製するのを妨げる作用があります。
富士フイルム富山化学が有効性と安全性を確かめる治験を始めており、国は今月中にも治療薬として承認するため、特例措置として審査を進める方針です。
また、厚生労働省によりますと、国内の1000あまりの医療機関が参加して、治療薬の効果を分析する「観察研究」が行われており、4月26日の時点で2194人の患者に投与されているということです。
研究班は、患者に投与したあとで症状の改善が見られたと報告する一方、現時点のデータだけでは有効性を判断することは難しいともしています。
中国政府はアビガンに症状を改善させる効果が、臨床研究で認められたとしています。
富士フイルム富山化学は、アメリカでも治験を行うことを発表しています。
ぜんそく薬オルベスコ
国立感染症研究所が多くの薬の候補を調べ、吸引するタイプのぜんそくの治療薬「オルベスコ」が新型コロナウイルスに効く可能性があることを示しました。
先月開かれた日本感染症学会のシンポジウムで、感染後、肺炎になった患者75人に投与した観察研究の結果、この薬を使わない場合に比べて悪化する割合を下げられる可能性があると報告しています。
すい炎や血栓症の薬フサン
東京大学の研究グループが新型コロナウイルスを使った実験の結果、すい炎や全身で血栓ができる病気の治療薬として国内で長年使われてきた「フサン」、一般名「ナファモスタット」は、ウイルスが細胞に侵入するのを妨げ、増殖するのを抑える効果が期待できると発表しました。
現在、東京大学附属病院で、患者に投与して効果を検証する観察研究が行われています。
リウマチ薬アクテムラ
免疫の異常によって起きる病気の治療薬についても効果の検証が進められています。
関節リウマチなどの治療薬「アクテムラ」は、中外製薬が創製した国産初の抗体医薬品です。中外製薬は感染して重症の肺炎患者に投与して効果を確かめる治験を国内で行うと発表したほか、アメリカなどでも海外の製薬会社が治験を始めています。
新型コロナウイルスに感染すると、一部の患者では、免疫の働きを高める「インターロイキン6」という炎症サイトカインが過剰に作られて免疫の仕組みが暴走し、重症の呼吸器不全が引き起こされると考えられています。
中外製薬は「アクテムラ」によって、「インターロイキン6」の働きを抑えることで、重症化した患者の症状改善につながるか、確認するとしています。
寄生虫薬イベルメクチン
2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授が発見した物質をもとにつくられた「イベルメクチン」も効果を確かめる研究が行われています。
この薬は、寄生虫が原因で失明につながる熱帯病の特効薬で、アメリカの大学のグループが新型コロナウイルスに感染した患者に投与したところ、死亡率が下がったと報告しています。
今後、北里大学は患者に投与する臨床研究を本格化させる計画を、新型コロナウイルス対策を担当する西村経済再生担当大臣に説明しています。
感染症の治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、「すでにある薬を新型コロナウイルスの治療に応用することを多くの研究が目指すもので、有効性も安全性も完璧な特効薬が出てくることは見込めない。それぞれの薬が持つ長所と短所を見極め、医療の現場が使いやすい薬を見つけることが重要だ」と話しています。
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